体重計・体組成計の選び方3 体組成の測定方法まとめと測定の正確性について

業務用の一番高い体組成計を見た結果、市販品との特に大きな違いは体組成の測定・算出の精度にあることがわかったが、そもそも体組成というのはどうやって測るのが一番正確なのか?また、体組成の測定方法には一体どんなものがあって、それぞれどんな特徴があるのか?一旦ここでそれらを明らかにしておこうと思う。

なお、このページに関しては体脂肪率の測定方法について詳しく知りたい人のために、かなり突っ込んで調査した内容を記載するつもりなので、結論だけ知りたい人は最初にまとめを書いておくのでそこだけ見て他のページに移るのがよいと思う。

体重計測定法の比較とまとめ


体脂肪測定法比較表
精度セイド 簡便カンベン コストのヤス
死体解剖シタイカイボウ ★★★★★ ★☆☆☆☆ ★☆☆☆☆
4成分セイブンモデル(4C) ★★★★☆ ★★☆☆☆ ★☆☆☆☆
水中体重法スイチュウタイジュウホウ(UWW、HW) ★★★☆☆ ★★★☆☆ ★★☆☆☆
重水希釈法ジュウスイキシャクホウ(DIL) ★★★☆☆ ★★★☆☆ ★★★☆☆
空気置換法クウキチカンホウ(ADP、BodPod) ★★☆☆☆ ★★★★☆ ★★★☆☆
二重X線法(DXA) ★★☆☆☆ ★★★★☆ ★★★☆☆
キャリパーホウ、皮下脂肪厚法(SF) ★☆☆☆☆ ★★★★☆ ★★★★★
インピーダンスホウ(BIA) ★☆☆☆☆ ★★★★★ ★★★★★
肥満度(BMI) ★☆☆☆☆ ★★★★★ ★★★★★

上記に体脂肪測定法の比較が一目でわかるよう比較表を作った。各測定法の名称に関しては資料によって表記がいろいろあるので、上記では代表的なものと略称だけ記載をした。それぞれの測定法に関して簡単に記載をしておく。

死体解剖
体脂肪・体組成を正確に測定する唯一の方法。死体を脂肪部と筋肉部に切り分けて各成分の重さを測定すれば、体脂肪率は正確に分かる。が、現実的に生きている人間にこの方法を使うことはできないので、他の方法で体脂肪を「推定」するしかない。

4成分モデル
これを測定法に分類するのも違和感があるが、生きている人間の体脂肪・体組成推定の方法として最も精度の高い方法(ゴールドスタンダード)とされているので測定法に組み入れた。これは体の成分を体脂肪、水分、ミネラル、タンパク質の4成分に分けて、体密度(体重/体積)を水中体重法または空気置換法で、体水分量を重水希釈法で、骨ミネラルを二重X線法で測定し、その結果を組み合わせて体組成の推定を行う方法である。

水中体重法
体の成分を体脂肪と除脂肪部の2つに分ける2成分モデルの代表的な方法で、4成分モデルが登場するまではゴールドスタンダートとされていた体組成推定方法。これは水の中に人を入れることで、押しのけた水量から体積が測定できるので、それを元に体密度(体積/体重)を求め、そこから脂肪量と除脂肪量の密度は一定という「仮定」のもと体脂肪率を求める方法。測定誤差は、そもそも除脂肪量の密度が一定という間違った仮定から来ている。骨も水分も内蔵部も含まれる脂肪以外の部分が一定の密度なわけがないから。体積の測定の精度が高いので2成分モデルとしては一番精度の高い方法ではあるが、大掛かりな装置が必要なのと、息を止めて水中に入る必要があるという測定の面倒くささから、他の方法に変わられつつある。

重水希釈法
体の総水分量を求める方法。重水という普通の水素よりもちょっとだけ重い重水素で出来た水を被験者に飲ませて、十分な時間を置くと体内の水分中の重水の濃度が一定になるので、尿に含まれる重水濃度から総水分量を求めるという方法。ここからどう他の体組成を求めるかというと、脂肪部には水分が含まれないのと、除脂肪量中の水分量は一定(73.2%)という仮定のもと、総水分量から除脂肪量を求め、体重の残りの部分を脂肪量として体組成を求めている。装置自体は大掛かりなものは必要でないものの、測定に数時間かかるという被験者、測定者の時間拘束が長いことが欠点。測定精度は水中体重法に次ぐ高さ。

空気置換法
BodPodという装置の中に入り、水中体重法で行ったような体積の測定を空気を用いて行う方法。被験者は3分間装置の中に入っていればよいだけなので負担が軽く、また装置のコストも500万円程度とものすごく高いわけではない。空気を用いる分、水中体重法よりは精度が落ちる。

二重X線法
体の成分を脂肪部、骨ミネラル、その他(骨ミネラルを除く除脂肪量)の3つに分ける3成分モデルの代表的な方法。2種類のX線を当てる、つまりはレントゲンのような方法で、骨密度の測定を行う方法。被験者は5~10分程度じっとしているだけでよいという手軽さと比較的精度が高いことから、タニタなど体組成計メーカーが体組成基準値を作る方法としてデファクトスタンダードになっているようだ。

キャリパー法、皮下脂肪厚法
キャリパーという挟んで厚みを測る器具を使用して、体の各部の厚さを測定し、そこから体脂肪率を推定する方法。測り方によって誤差が発生しやすいのと、そもそもこの方法からの推定は、他の体組成推定法からの測定値を元にそこからさらに推定をするという「推定に推定を重ねた方法」であるため精度が低い。

インピーダンス法(BIA)
体組成計で一般的な、足裏や手のひらから軽い電流を流してその電流抵抗から体組成を求めるという方法。電流は抵抗の少ない部分を通る性質があるので、水分の多い除脂肪部を通り、体脂肪が多いと電流の抵抗が大きくなるという仕組み。最も手軽な方法の一つではあるものの、DXA法などの基準となる推定法の測定値を元にさらに推定をするという「推定に推定を重ねた方法」であるため誤差が出やすい。また体の水分量の状態により電気抵抗が変わってしまうため、実際の体脂肪量の変化がなくとも体脂肪量が増減してしまうような、安定性の低い推定方法である。

肥満度(BMI)
これを体脂肪推定法に入れてよいかどうかは疑問が残るところではあるが、含めているものがあるので一応紹介。単純に体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったものである。例えば身長170cm(1.7m)、体重60kgの人なら60/1.7^2=20.761となる。このBMIの値から体脂肪率の推定式を使って体脂肪率を簡易的に求めるというのがこの方法である。つまるところこの方法は体重を測定しているのと大差がない。大人になれば身長は一定なのだから、体重の変化=体脂肪率の変化となってしまう。ただ、BIAによる推定精度がこの方法と誤差の大きさの上で大差がないという論文もあり、BIAの精度が低さが伺える。


さて、各測定法(推定法)の精度に関しては27人の男性ボディービルダーを対象に、4成分モデルと他の推定法の誤差を比較した下記の図がわかりやすいかと思う。
各測定法の棒の長さは被験者の95%(正確には2σ=95.45%)が4成分モデルと比較してどれくらいの誤差が出たのかという範囲を表している。記号ばかりでわかりにくいので下記に対応測定法を記載しておく。
BMI:Body Mass Index、肥満度
SF:SkinFolds、キャリパー法、皮下脂肪厚法
BIA:Bioelectrical Impedance、インピーダンス法、体組成計でお馴染みの電流抵抗測定法
DXA:Dualenergy X-ray Absorptiometry、二重X線法
DIL:deuterium DILution、重水希釈法
UWW:UnderWater Weighing、水中体重法
3Cw:総水分量測定3成分モデル(脂肪部、総水分量、その他)
3Cb:骨ミネラル測定3成分モデル(脂肪部、骨ミネラル、その他)

ということで、体組成計でおなじみのBIA法や手軽で安価なキャリパー法の精度の低さが際立っていることがわかる。また、タニタなどが体組成推定式の元データとしているDXA法の精度が4成分モデル、水中体重法、重水希釈法などと比較してもそれほど高くないということもわかる。



参考文献


体組成測定に関しては、日本語、英語問わず、いろいろと読み込んだが、特に参考になったサイトをいくつか紹介する。

栄研スタッフによる解説論文集 体脂肪計
体脂肪の測定方法に関する日本語の専門資料としては、国立健康・栄養研究所 国際・産学共同研究センター長である松村康弘氏執筆のこの記事をまず読み込むのがよいと思う。専門性を維持しながらも簡潔に、様々な体脂肪測定法について網羅的に解説を行っているのが素晴らしい。

weightology weekly
様々な論文のデータを引用しながら体組成の測定に関する内容をまとめている専門サイト。英語サイトということで読み込むのに敷居が高いが、信頼性の高い情報を得たい場合はここを見てみるのがよいと思う。
The Pitfalls of Body Fat “Measurement”: Part 1
The Pitfalls of Body Fat “Measurement”: Part 2
The Pitfalls of Body Fat “Measurement”, Part 3: Bod Pod
The Pitfalls of Bodyfat “Measurement”, Part 4: Bioelectrical Impedance (BIA)
The Pitfalls of Body Fat “Measurement”, Part 5: Skinfolds
The Pitfalls of Body Fat “Measurement”, Part 6: Dual-Energy X-Ray Absorptiometry (DEXA)
The Pitfalls of Body Fat “Measurement”, The Final Chapter

ATHLETEBODY.jp
上記「The Pitfalls of Body Fat "Measurement"(体脂肪測定の落とし穴)」を一部翻訳をしているサイト。全部ではないが、大体主要な部分をわかりやすく訳してあるので、まずはこちらを読んでみるのがよいかもしれない。タニタ、オムロンなどに代表される手足に電流を流す測定方式に関してはPart3を読むと良い。
誤差だらけの体脂肪率 Part1 推定値のカラクリ
誤差だらけの体脂肪率 Part2 水中体重測定法
誤差だらけの体脂肪率 Part3 市販の体組成計
誤差だらけの体脂肪率 Part4 DXA

【企業サイト】お客様サポート 水中体重法とは
タニタのQ&Aページ。この記載からタニタが体組成の基準推定法としてDXA法を採用していることがわかる。全文引用しておく。

体脂肪を測定する時に用いる測定装置で、ヒト一人が入れる水槽にヒトを沈めて水中でのヒトの体重を測定します。水中での体重を測定することにより、そのヒトの密度がわかります。この密度から体脂肪量を推定します。「密度の低いヒトほど体脂肪が多い」という統計が得られています。この測定方式は装置が大がかりで被測定者に対する負担(水中に潜る)も大きいので、特別な研究機関のような所以外ではあまり使われておりません。
水中体重計は、体脂肪計が開発されたころには、標準値として用いられていましたが、近年では体脂肪率の基準計測法としてはDXA法にとって変わっています。

体組成計DC-320 体脂肪率に関する資料(PDF)
タニタが以前まで使用していた水中体重秤量法からDXA法に体組成測定基準法を変更した経緯が書かれている。これによると、水中体重秤量法は、息を吐ききった状態で測定装置の水槽に入る必要があるのだが、肺に残る残気量の個人差が大きく、それによる測定精度のばらつきに課題があったとのこと。

オムロンのこだわり | 商品情報 | オムロン ヘルスケア
オムロンの体組成推定式を作るための基礎データ測定方法紹介ページ。体脂肪率は水中体重秤量法で、基礎代謝は呼気ガス分析装置で、内臓脂肪レベルはX線CTスキャン装置で、皮下脂肪率と骨格筋率はDXA法とMRIを使って取っているとのこと。

bodybuilding.com Thread: Anyone used a Bod Pod??
Bod Podの値段について。公式サイトの値段記載箇所が見つからなかったので、ちょっと信頼性は落ちるが掲示板記載の内容を引用。$50,000(約500万円)とのこと。ちなみにBFとはBody Fat(体脂肪)のこと。
Have any of you ladies had your BF measured using one of these machines? I had mine done today at Univ. of R.I.'s exercise physiology laboratory. I had read about the machine in a magazine and went to their website (www.bodpod.com) to find out of there was a facility in my area which has one. The machine costs about $50,000, so it's not really intended for home use... Apparently this method of measurement is accurate within 2%. It's comparable to the hydrostatic "dunk tank" method.

Body composition techniques and the four-compartment model in children
4成分モデル(4コンパートメントモデル、four-compartment model)の詳細測定法に関して知りたい人は英文になるがこの論文を読んでみると良い。結論だけ書いておくと、
%Fat=(2.747/Db−0.714 W+1.146 B−2.053)×100
という式で体脂肪率を求めている。Dbは体密度、Wは体水分量、Bは骨ミネラル量で、それぞれ水中体重法orBodPod、重水希釈法、DXA法で求めたものを値として使っている。

生物図表ウェブ 浜島書店の高校生物資料集 同位体と生物学
重水希釈法で出てきた重水とか重水素ってなんぞやという人向けに一番わかりやすい説明があったので紹介。下記の図がわかりやすいが、普通の水素(軽水素)は陽子1個と電子1個で構成されているのに対して、重水素はそれに中性子が1個ひっついているという構造。でも水素は水素。普通の水はH2Oと表記されるが、重水は重水素をDと表現してD2Oと表される。水も重水も化学的な性質はほぼ同じで、かつ体に重水が自然に混ざることはほぼないので、こうした体水分量の測定に便利に使えるというわけ。


重水希釈法による体脂肪量測定の実験的および臨床的研究(PDF)
千葉大学の宮沢幸正氏による論文で、特に重要なのがラットの総水分量と除脂肪量の関係に関する言及部分。下記の図の通り、脂肪量が異なるラットとの間でも除脂肪体重における全体水分量の割合は0.757±0.01とほぼ一定であったという結果に。重水希釈法の体組成推定精度の高さは、この総水分量と除脂肪量の割合がほぼ同じ(人間に関しては73.2%)という仮定が精度の高いものであることに由来していると考えられる。

Body mass index as a measure of body fatness: age- and sex-specific prediction formulas
1229もの被験者(男性521名、女性708名、年齢は7歳から83歳まで)に及ぶBMIと体脂肪率の関連性の調査の結果作られたBMIから体脂肪率を推定する式は下記の通り。
子供(15歳以下) Body Fat % = (1.51 x BMI) - (0.70 x Age) - (3.6 x gender) + 1.4
大人 Body Fat % = (1.20 x BMI) + (0.23 x Age) - (10.8 x gender) - 5.4

topendsports Siri Equation
体脂肪推定の際によく用いられるSiriの方程式について。具体的には下記の方程式を指す。
% Body Fat = (495 / Body Density) - 450
これは除脂肪量の密度が一定というものすごく大雑把な仮定に基づいて作られた式となっている。ちょっと考えればわかるが、そんなことはありえなくて、脂肪を除いた骨や水分や筋肉、内臓器官などを合わせた密度が一定なはずがないので、それが水中測定法を始めとする2成分モデル(2コンパートメントモデル)の体脂肪率の推定誤差の要因となっている。また、上記Siriの式は白人を対象にした式であり、黒人、アジア人など民族によって除脂肪密度は大きく変わるため、それぞれに足して異なる方程式を使う必要がある。