体重計・体組成計の選び方5 タニタ、オムロン、パナソニック、ドリテック、Withingsの体脂肪基準計測法と精度について

家庭用の体脂肪計・体組成計については、足裏、または両手両足に電流を流して、そこで得られたインピーダンス(抵抗値)を元にして体脂肪率などの体組成の値を求めるBIA法というものを用いている。

実はBIA法を使って体組成推定値を出す方法は2種類ある。一つは下記のように人体を単純な円筒形と見立てて、円筒に電流を流したときのインピーダンスの式を用いて体組成を求めるBIA仮説モデルによるものである。これは単純な計算で求めることができるため、体脂肪推定式を構築するコストはかからないものの、人体の多様性を全く考慮していないため、精度という観点では最悪の方法である。無名メーカーの安物の体組成計で使われているのがこの方法。

もう一つは、より精度の高い基準計測法を用いて様々な性別、年齢、人種、体格の体組成データと生体インピーダンスの値を取ることにより、精度の高い体脂肪推定式を構築する方法である。この方法は、先のBIA仮説モデルのように人体を円筒形に見立てるような乱暴な仮定がない分、精度が高くなる。一方、多様な人体の測定データを収集する必要があるため、コストと時間のかかる方法である。

今回、家庭用体脂肪計・体組成計の精度に大きく影響する体脂肪推定式をどういった方法で構築しているのか、基準計測法を用いている場合は、どの方法を用いているのかに関して、タニタ、オムロン、パナソニック、ドリテック、Withingsの各社に質問をし、回答をいただいたいので、それをご紹介しようと思う。


タニタの体脂肪基準計測法について

タニタに関しては、公式ページにて基準計測法を用いた体脂肪推定式を使っていることを明言している。また、基準測定法にはDXA法を用いていることも記載がある。
機種によって、体脂肪率の測定結果が違うのはなぜですか?

気になった点として、高級機種と格安機種で使っている体脂肪推定式を変えたりしているのかについて確認をしたが、どの機種でも同じ推定式を使っているとのことだった。つまり、価格の高い機種も安い機種も、精度が変わるわけではないということである。

ただし、近年タニタの高級機種ではインナースキャンデュアルという低周波と高周波の2つの電流を用いた計測を行うことで、測定精度を上げたものを発売している。元々精度が低いBIA法での体組成測定精度を上げるために、複数の周波数を用いて計測する方法は、業務用・医療用の体組成計では用いられていた技術であり、大手ジムなどに置かれている200万円するタニタの業務用最高級機種では、6つの周波数を用いることで、DXA法と同等の精度を出したという事例もある。


オムロンの体脂肪基準計測法について

オムロンに関しても、公式ページにて基準計測法を用いた体脂肪推定式を使っていることを明言している。また、体組成の計測に関しては、複数の基準計測法を用いており、体脂肪計測には水中体重法、骨格筋率にはDXA法やMRIを用いていると記載がされている。
オムロンのこだわり | 商品情報 | オムロン ヘルスケア


パナソニックの体脂肪基準計測法について

パナソニックに関しては、公式ページに基準測定法に関する記載がなかったため質問をしたところ、DEXA法(DXA法と同じ、表記の方法が複数あるだけ)を基準測定法として用い、そのデータとBIA法で得られたインピーダンスとの相関を取って体脂肪推定式を構築しているとの回答があった。


ドリテックの体脂肪基準測定法について

ドリテックに関しても、公式ページに基準測定法に関する記載がなかったため質問をしたところ、基準測定法を用いた体脂肪推定式を使っているとの回答をいただいた。基準測定法には、水中体重法、DXA法、CT法を用いて、体重、身長、性別、年齢の要素を加味した体脂肪推定式を構築しているとのこと。


Withingsの体脂肪基準測定法について

フランスのベンチャー企業であるWithings(ウィジングズ)についても、スマートフォンとのデータ連携に優れた体重計・体組成計を出していることで、一部ユーザーに需要があることが確認されたため、体脂肪率の基準測定法に関する質問をさせていただいた。

上記の通り、タニタ、オムロンなど、日本の大手体脂肪計・体組成計メーカーでは基準測定法に何を用いているかは公開情報である旨も説明した上で、何度かメーカーとのやり取りを行ったのだが、Withings側からの回答としては、「非公開情報でありお答えしかねる」というものであった。

ここからは、複数の情報を加味した上での私自身の推測になるが、Withingsの体組成計に関しては、コストと手間の掛かる基準測定法を用いた体組成推定式を用いているのではなく、精度は著しく悪いがコストもかからない単純なBIA仮説モデル(人体を円筒形に見立てた乱暴な計算モデル)を使用している可能性が高い。

そう言える理由として、まずは本来答えるほうが有利であるはずの基準計測法に関する質問への回答を拒否したこと。すなわち、彼らにとって、精度が悪い単純なBIA仮説モデルを使用していることを暴露してしまうことになるため、回答を避けたというのが解釈としては妥当であろう。

次に、Withingsの体組成計の測定項目について。Withingsでは全世界でも体重計・体組成計は計2種類しか出していない。一つは日本未発売の体重とBMIしか測れないもの。もう一つは体重、体脂肪率、心拍、空気の質の4項目が測れるものである。

これは非常に不自然な項目設定である。というのは、空気の質のような体組成データとは何の関係もないごまかしのような測定項目がある一方、骨格筋率のような、基準計測法として一般的なDXA法を用いていれば必ず計測できるはずの項目が体組成計に含まれていないからである。

DXA法というのは、一言で言えばX線を用いたレントゲンのような計測方法である。レントゲンの画像を見たことのある人ならわかるとおり、人体の中にどれだけの骨があるかを推定することが得意なのがこのDXA法である。DXA法を使えば、比較的短時間で人体を骨と脂肪とそれ以外を測定することができるため、Withings以外の4メーカーすべてで用いられているほど人気の測定法となっている。

そんなDXA法を用いれば当然計測できる骨格筋率が、Withingsの体組成計にないということは、つまり、基準測定法によるデータ収集を行っていないと考えるのが妥当な推論であろう。

その他、そもそもWithingsはスマートデバイスとの通信連携ガジェットを作ること(いわゆるIoTデバイス)が主力事業であり体組成計製造は本業ではないこと、2008年に創立された若い企業であり、従業員も体組成計を作った後の2010年時点でパリ本社に20名しかいないことなどを踏まえると、地道に膨大なデータを手間ひまかけて取得する余裕も人員もないであろう。

ということで、ある程度の精度を体組成計に求めるのであれば、Withingsに関しては選択肢から外したほうが無難である。


まとめ

以上、一通りの体組成計メーカーの体組成基準測定法に関して調査を行ったが、意外だったのは、タニタ、オムロンの体組成計メーカー大手2社以外でも基準測定法を用いた体脂肪推定式の構築方法を採用していた点。各社に質問をする前は、大手2社以外はBIA仮説モデルの単純な計算式を組み込んだだけの粗悪品を作っているものとばかり思っていたので、正直驚いた。

一番気になる人が多いであろうどのメーカーの体組成計が一番正確かについては、これはわからないというのが率直な結論になると思う。というのは、結局正確な体脂肪率は死体解剖以外では測定ができないため、基準測定法として出てきたDXA法でも水中体重法でもあくまで推定でしかないのである。

そして、その人個人の体脂肪率を一番正確に推定している体組成計メーカーがどこかを確認するためには、その人自身がより精度の高い方法で計測をした上で、その結果と各社の体組成計の数値を見比べるしかないわけである。私にとって精度の高い体組成計が、他の人にとっても精度が高い保証はないのだ。

一番現実的な方法としては、大手ジムに置いてある業務用のタニタの最高級機種の体組成計は、DXA法と同等の精度が出るとのことなので、それと各社の家庭用体組成計の数値を見比べて、数値の近いものがその人にとって精度の高い体組成計と言えるかもしれない。

妥当な推論をするならば、体組成計のシェアが高いタニタとオムロンの大手2社は、他のメーカーよりも体組成の基礎データを多く収集している可能性が高いので、より精度の高い体組成推定式を作れる可能性も高いと思われるが、あくまで推測の範囲内である。

以上、各体組成計メーカーの基準測定法と体脂肪率の精度に関して調べられるだけの調査はしたと認識している。体組成計選びのご参考にしていただければと思う。