体重計・体組成計の選び方4 体組成計の体脂肪率推定方法であるBIA法の原理と精度について

体脂肪を「測定」する方法は死体解剖以外にはないこと、そして数ある体組成「推定」方法の中で、体組成計で用いられるBIA法は本来精度の低いものであることは前のページでわかったことだが、ちょっとこのBIA法に関して掘り下げてみようと思う。

BIA法(Bioelectrical Impedance、インピーダンス法)の基本原理に関しては下記がわかりやすい。
BIA法の基本的理論
wikipedia 電気抵抗率

Z(インピーダンス、交流における抵抗のようなもの) = ρ(電気抵抗率)*L(長さ)/A(断面積)

これを式変形していくと最終的に、

V(L*A、電気を通す除脂肪部の体積) = ρ(電気抵抗率)*L^2(身長の二乗)/Z(インピーダンス)

となるので、微弱な電流を流して得られたインピーダンスと、測定者に入力してもらった身長の値があれば除脂肪部の体積がわかり、ここからさらにSiriの式に代表されるような、これまた除脂肪部の密度は1cc当たり1.1gで一定だよね、という骨も筋肉も内臓器官も水分も一緒くたにした荒っぽすぎる仮定を用いて除脂肪体重を求めてあげて、それを体重から引いて脂肪量を出しているというのが基本原理だ。

つまり、BIAという方法は2つのかなりいい加減な仮定を使って体脂肪を求めている。
・人の体を円柱とみなしている仮定
・除脂肪部の密度が一定という仮定

さらにもうひとつ、「誤差だらけの体脂肪率 Part3 市販の体組成計」にあるように、
・DXA法など、他の基準測定法による体脂肪推定値と対応させるようにBIAの方程式を作る「推定値に推定値を重ねた」ことによる誤差
という問題もある。

これらの要因により、前ページで述べたとおり、BIA法は他の体組成推定法と比較しても最低レベルの精度となっており、下記の通り誤差の範囲が最も大きい測定法となっている。

ただし、タニタに関してはどの価格帯のモデルからなのかはわからないが、独自の最適化(複数周波数の使用による細胞外液・細胞内液の区別、豊富な実測データに基づいた独自アルゴリズムの採用)によって、少なくとも一番よい業務用モデルではDXA法(レントゲンみたいなのを使って体組成を推定する方法)とほぼ同等の精度が出るようになっているとのこと。
タニタ 体組成計の原理

ちなみにオムロンに関しては水中体重法(上記で言うUWW)を基準測定法として用いているようだ。
オムロン 商品活用ガイド 体重体組成計 オムロンのこだわり

ここまででわかったことは、とりあえずの体組成計を作ること自体はそんなに難しくはなさそう(さっきのいくつかの基本的な式を組み込めばよいだけ)だが、測定の精度を上げようとすると、豊富な計測データとそれらを元にした独自アルゴリズムの開発が必要になるためそれなりの研究予算が必要になるということだ。

体組成計のシェアに関するページでも書いたが、この体組成計という分野においてはタニタとオムロンのシェアが圧倒的だ。大きく離されてパナソニックが第3位にいるが、正直5%前後のシェアで計測データを膨大に貯めこむ予算がどれだけあるのかは疑問の残るところだ。機種数が少ないなどの状況と合わせて類推するに、おそらくはパナソニック内でも日陰部署で、それほど予算も与えられていないのではなかろうか?


ということで、体組成計で使われているBIA法に関してかなり詳しく掘り下げたが、結論をまとめよう。

・BIA法は本来的にはとても精度の低い体組成推定法
・精度が低い理由は体を円柱とみなしたり、除脂肪密度を一定と置くなどいい加減な仮定を重ねているから
・さらにはDXA法、水中体重測定法といった基準推定法の結果とBIA法の結果の対応式を作るという「推定に推定を重ねる」ことにより誤差が大きくなる
・測定精度を上げようとすると、別のより精度の高い手段で計測した多種多様な性別・年齢・体格の体組成データが必要になり、それに対応した独自アルゴリズムの開発が必要になる
・そのため、データ収集のための予算を十分に持っているシェアの高い企業でないと、十分な精度を出すのは難しいと想定される

つまりは実質的な選択肢はやはりタニタかオムロンということになる。ただし、安いモデルだと円柱モデルを使って計算をしているだろうから、どこからがよりまともな計算式を利用しているのかというのが、一つ、体組成計を選ぶ際の基準になると思われる。